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黒いiPodから始まった事件はどこへ向かうのか…。
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全ての空気がまとわりついてくるかのような夏の暑い夜。そんな不快に満ちた夜でも、居酒屋の中はエアコンでキンキンに冷えている。奥の座敷では学生のグループが大騒ぎし、テーブル席では学生やサラリーマンが大騒ぎを横目に、時間つぶしの会話をつむぎだしている。そんなテーブル席に近所の大学の大学院生、タカシとリョウがいる。二人とも淀みの中にとけていくかのように、まったりと飲んでいる。いつもは教授や助教の悪口ばかり話しているタカシが、今日は他愛のない話に興じている。そんなタカシをリョウは不思議に感じていた。

+ + + + + + + + + +
「さっきから気になってたんだけど、なんだか嬉しそうだな」
「ああ、ちょっといいことあってね」
タカシはバッグから鈍く光る黒いiPodをそっと取り出す。
「お、iPodじゃん。でもなんかそれ違うな。」
「よく気がついたじゃないか。ほら、よく見てみろよ」
タカシから渡されたiPodを手にしたリョウは、ぎょっとした顔をする。
「な、いい感じだろ」
「あ、ああ。手にしっくりくるって言うか、引き込まれそうな感じだな」
「微妙にふくらみがあるんだよ。しかも、色がいい。ずっと見ていられるよ」
「魂、抜かれそうな感じだな」
タカシはリョウの手からiPodを取り、愛しげに撫でている。
リョウはそんなタカシを少し気味悪げに見ていたが、笑顔をつくろい、
「で、何入れてんだ。俺にも聞かせてくれよ」
タカシはニヤニヤしながら幸せをたたえた目でリョウを見ながら指を立て、メトロノームのように規則正しくゆっくりとその指を振った。
「そりゃだめだよ。絶対」
「ちぇ、なんだよ、けちだな。どうせ聞かれたら恥ずかしいような曲でも入ってんだろ。オタクやろう」
タカシはニヤニヤと笑いながら、
「今日は俺のおごりでいいよ」
リョウは気味の悪さを覚えた。いつもだったら1円単位まで割り勘にしようとするタカシの言葉とは思えなかったのだ。
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