ステージにスミレがマイクとタンバリンを持って裸足で戻ってきた。ダメージ加工が施された白いワンピースの裾は大胆に斜めのカッティングが施されていた。腰の赤いリボンがワンポイントになっている。長いストレートの黒髪が美しい。スミレはまっすぐアキラを見た。

満月が明るい山中のホテル。響く銃撃の音。叫び声。裸足で部屋から走り出してきた小学校低学年だと思われる少女。華奢な体に長く美しい黒髪。白のワンピースは破れ、血が飛び散っていた。恐怖にかられて走る少女を少年が抱きとめた。小学校高学年と思われる少年は、どちらかというと背が低く、体もまだ大人になっていなかった。
「しっかりしろ」
「お父さんが…お父さんが…」
「遅くなって悪かった。お前は俺が守る」
少女が出てきた部屋から男が出てきた。迷彩のミリタリールックで肩にマシンガンを吊るし、サバイバルナイフを握り締めている。大きなゴーグルをつけていて、ゴーグルの向こうの目は見えない。少女が声にならない悲鳴をあげて、少年の後ろに隠れる。
「もう嫌なものは見なくていい。目を閉じてろ」
少女は目を閉じようとはしない。
「目を閉じないのか？じゃあ、その目に焼き付けておけ。死なずにすむことを確信しろ」
男はサバイバルナイフをしまってマシンガンを構えた。
「子供まで殺せるだなんて!?」
男は甲高い笑い声をあげた。

ふらつき倒れそうなスミレをスピードが支えた。

「この時、スミレと目が合いました」
「え!?」
リョウの言葉に春日は羨ましさを隠せない。
「恥ずかしいことに、腰が抜けて座り込んでしまいました」
「？」
「スミレの目には優しさがあふれていました。どうして腰が抜けてしまったのか…」

ふらついてスピードに支えられていたスミレが、スピードを押しのけてしっかりと立ち、スピードにウインクする。

アキラが食い入るようにステージを見ている。
「(小声で）サラ、今までと違うはずだ。…そうか、やっぱりな。データをT2に送って、パターン抽出させろ」

スミレがステージ中央に進む。スミレはタンバリンをフィリーに投げ渡す。タンバリンを受け取ったフィリーはもの問いたげにスミレを見た。スミレはタンバリンを下に置くように手で示すと、いつもと違い直立の姿勢のままマイクをすーっと口元に寄せた。三人が構えようとすると、スミレは空いている方の手を真横に静かにあげる。三人が構えをとき、スミレもあげた手を下ろした。

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