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黒いiPodから始まった事件はどこへ向かうのか…。
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気がつくと、すべての曲が終わり、部屋の中は静けさに包まれていた。
「『レッド』をもう一度かけますか?」
リョウが春日に尋ねた。
「いえ、いいです」
リョウが『レッド』のパッケージを手に取って見つめる。
「すべてが真っ赤なパッケージ。この色が血を連想させることから、ファンは事件当日スミレが着ていたウェディングドレスの色・ピンクをこのアルバムの呼び名にした。でも、私はこの色は彼女が事前に決めていた色だと思っています。ライブで彼女は真っ赤なドレスにお色直ししたのではないでしょうか。彼女の情熱的な愛を語るのにふさわしい色だと思います」
「そうですね。スミレが彼を思う気持ちを表す色は赤しかないのかもしれない…。あなたの言うとおり、彼らがまだ小さかった時に何か事件があったのでしょう。調べてみますよ」
「清君に好意をもっていただけましたか?」
春日は首を横に振った。
「いいえ。彼のさくらさんや徳川さんに対する態度は許せません。彼はあなたのビジョンを利用して敵と闘った。行動はビジョンを変えることができる。私はあなたが見たビジョンのように考え込んだりしません。彼が法を犯せば全力で逮捕する。それだけですよ」
リョウは穏やかな笑顔を浮かべて春日の目を見た。
「捜査に私情は持ち込みません」
「清君の左手は義手です」
「たとえそれが警察のせいだとしても、捜査には関係ありません」
「彼の義手を作ったのは誰だと思います?」
「義手のことはよく知りません」
リョウがにやにやしている。
「!?もしかして、私が知っている人ですか?」
リョウが頷いた。
「でも、義手を作れる人に心当たりは…」
「今日の話に出てきた人です。聖都大学の研究・技術力は世界にひけをとりません。いえ、世界一のものも持っています」
「彼に関わった大学の先生か…」
宙を見ながらリョウの話を思い出している春日。その顔に驚きの色が現れる。
「まさか…」
「そのまさかです。清君同様中学卒業とともに満点でこの聖都大学に入学した清水先生」
「でも、二人は犬猿の仲でしたよね」
「二人がどうして憎み合っていたのか、どうやって手を組んだのかは謎です。でも、今の彼らを見ているのは楽しいですよ。喧嘩ばかりしている仲のいい姉弟みたいです」
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個室のベッドで穏やかな顔をして眠っているスミレ。しかし、その姿はどこか儚かった。

「あんたたちに何の話をすれば、スミレが目を覚ますっていうんだ」
ベッドに起きているアキラはさくら刑事と徳川刑事に吐き出すように行った。
「スミレさんを撃ったのは別の人間だ。そいつを捕まえたい」
「それはあんたたちの仕事だ。スミレや俺には関係ない」
「君は警察は何もできないと思っているようだが、徳川さんは身を挺して君たちを守ろうとしたんだぞ」
ため息をつくアキラ。
「あの時、そのじいさんが余計なことをしなければ、あいつが銃を撃つ前に銃を蹴り飛ばせた」
「強がりを言うんじゃない」
「いや、彼の言うとおりだ。清君、私は君にどう詫びればよいのか分からない。だが、あの時はああするしかなかったんだ」
徳川は深々と頭を下げた。
「謝らなくていいよ。だけど、自分の命は大切にしな。死んだらもう誰も守れなくなる」
アキラが寂しげな目をしたその時、上から爆発音が轟いた。
「見てきます。徳さんはここにいてください」
さくらが部屋から飛び出した。
黒ずくめの男の首にアキラの投げたナイフが突き刺ささった。ライフルから発射された弾はまっすぐアキラに向かう。アキラは表情一つ変えようとしない。空中高く跳び上がっているアキラの前に、笑みを浮かべたスミレが突然現れた。
『今度は私がアキラを守る』
スミレの思いがアキラの頭にフラッシュした。
「ダメだ!」
アキラはスミレを抱きしめて反転し、スミレを抱きかかえて着地する。アキラの目から涙がポロポロと流れ落ちた。
「頭を撃たれた!救急車だ!救急車を呼んでくれ!」
大きなゴーグルをつけた男が叫びながら二人の間近まで走って来ていた。
『至近距離で撃とうとするが、男が間に入る』
リョウの声に唇を噛むアキラ。徳川刑事が大きなゴーグルをつけた男の前に立ちはだかろうとする。
「どけ、じじい!」
アキラは右手にスミレを抱きかかえたまま、左手で徳川の服をつかんで横に払う。目の前に現れた男がショットガンの引き金を引いた。響く銃声。ショットガンの銃口にかざしたアキラの左手が吹っ飛び、アキラの左足がショットガンを蹴り上げた。血まみれになったアキラと男、そしてスミレ。桜刑事がタックルで男を倒す。
「スミレは生きてるんだ!救急車を呼んでくれ!」
「聞こえるか?」
バイクを運転するアキラにしがみついているリョウの耳につけられた装置からアキラの声が聞こえた。
「はい」
「大きな声を出さなくても聞こえる」
「はい」
「スミレを守るから、手伝え」
「僕には無理だ」
「お前には未来を読む力がある」
「ただの夢だよ」
「眠らないで見てて、夢かよ」
「ど…どうしてそれを」
「自分の力を信じろ。お前はスミレの子だ」
「スミレの子!?」
「お前の力は、スミレによって目覚めた」
「じゃあ、清君も…」
「俺はスミレの子じゃない。守り人だ」
「守り人…」
「スミレを狙っている奴等の動きを教えろ」
「無理だ。何も見えてこないよ」
「まだだ。着いてからだ。スミレを守ることだけ考えろ」
小洒落た教会が見えてくる。教会前の広場に群集。その群集の直前でバイクを止めて走り出すアキラ。群集から悲鳴が上がり、走り出す者、その場にしゃがみこむ者で大混乱が起こる。ピンクのウェディングドレスを着たスミレの姿が群集の向こうに見える。スミレの視線の先にはショットガンを構えた男がいる。男は大きなゴーグルをつけていた。
『あの時と同じだ』
アキラは群集の間を信じられないスピードでスミレの元へと近づいて行く。
「敵はどこだ」
「そいつだよ!そいつが撃つ!」
「もう一人だ。もう一人いる。早くしろ」
「後ろだ!スミレの後ろのビルの屋上!」
屋上をちらと見るアキラ。
「Sの最後のアルバムを聞きますか?」
リョウが春日に尋ねた。
「ええ。一番好きですから」
リョウがCDを再生した。電話越しのスミレの歌声が流れ出す。
「次のライブのために電話でスミレがスピードに歌った。その録音がCDに使われています」
涙目で頷く春日。スミレの歌にスピードのギター、フィリーのパーカッション、スティーブのキーボードが重なっていく。
「春日さん、約束してくれませんか」
「?」
「これから話すことを誰にも言わないと」
「どうしてですか?」
「警察の人には、特にあなたのように新しい捜査方法を考えているような人には話したくないことです」
春日はゴクリと唾を飲み込み、
「分かりました」
「私にも、清くんにも、何も求めないでください」
「約束します」
「Sのサード・ライブはチャペルで行われることになっていました。呼ばれたのは結婚式を控えているカップルだけ」
「そうでしたね」
「ライブが行われる日のことです」
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