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黒いiPodから始まった事件はどこへ向かうのか…。
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黒ずくめの男の首にアキラの投げたナイフが突き刺ささった。ライフルから発射された弾はまっすぐアキラに向かう。アキラは表情一つ変えようとしない。空中高く跳び上がっているアキラの前に、笑みを浮かべたスミレが突然現れた。
『今度は私がアキラを守る』
スミレの思いがアキラの頭にフラッシュした。
「ダメだ!」
アキラはスミレを抱きしめて反転し、スミレを抱きかかえて着地する。アキラの目から涙がポロポロと流れ落ちた。
「頭を撃たれた!救急車だ!救急車を呼んでくれ!」
大きなゴーグルをつけた男が叫びながら二人の間近まで走って来ていた。
『至近距離で撃とうとするが、男が間に入る』
リョウの声に唇を噛むアキラ。徳川刑事が大きなゴーグルをつけた男の前に立ちはだかろうとする。
「どけ、じじい!」
アキラは右手にスミレを抱きかかえたまま、左手で徳川の服をつかんで横に払う。目の前に現れた男がショットガンの引き金を引いた。響く銃声。ショットガンの銃口にかざしたアキラの左手が吹っ飛び、アキラの左足がショットガンを蹴り上げた。血まみれになったアキラと男、そしてスミレ。桜刑事がタックルで男を倒す。
「スミレは生きてるんだ!救急車を呼んでくれ!」
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「聞こえるか?」
バイクを運転するアキラにしがみついているリョウの耳につけられた装置からアキラの声が聞こえた。
「はい」
「大きな声を出さなくても聞こえる」
「はい」
「スミレを守るから、手伝え」
「僕には無理だ」
「お前には未来を読む力がある」
「ただの夢だよ」
「眠らないで見てて、夢かよ」
「ど…どうしてそれを」
「自分の力を信じろ。お前はスミレの子だ」
「スミレの子!?」
「お前の力は、スミレによって目覚めた」
「じゃあ、清君も…」
「俺はスミレの子じゃない。守り人だ」
「守り人…」
「スミレを狙っている奴等の動きを教えろ」
「無理だ。何も見えてこないよ」
「まだだ。着いてからだ。スミレを守ることだけ考えろ」
小洒落た教会が見えてくる。教会前の広場に群集。その群集の直前でバイクを止めて走り出すアキラ。群集から悲鳴が上がり、走り出す者、その場にしゃがみこむ者で大混乱が起こる。ピンクのウェディングドレスを着たスミレの姿が群集の向こうに見える。スミレの視線の先にはショットガンを構えた男がいる。男は大きなゴーグルをつけていた。
『あの時と同じだ』
アキラは群集の間を信じられないスピードでスミレの元へと近づいて行く。
「敵はどこだ」
「そいつだよ!そいつが撃つ!」
「もう一人だ。もう一人いる。早くしろ」
「後ろだ!スミレの後ろのビルの屋上!」
屋上をちらと見るアキラ。
「Sの最後のアルバムを聞きますか?」
リョウが春日に尋ねた。
「ええ。一番好きですから」
リョウがCDを再生した。電話越しのスミレの歌声が流れ出す。
「次のライブのために電話でスミレがスピードに歌った。その録音がCDに使われています」
涙目で頷く春日。スミレの歌にスピードのギター、フィリーのパーカッション、スティーブのキーボードが重なっていく。
「春日さん、約束してくれませんか」
「?」
「これから話すことを誰にも言わないと」
「どうしてですか?」
「警察の人には、特にあなたのように新しい捜査方法を考えているような人には話したくないことです」
春日はゴクリと唾を飲み込み、
「分かりました」
「私にも、清くんにも、何も求めないでください」
「約束します」
「Sのサード・ライブはチャペルで行われることになっていました。呼ばれたのは結婚式を控えているカップルだけ」
「そうでしたね」
「ライブが行われる日のことです」
ドーナツ屋の店内でテーブル席に一人で座りドーナツを食べているアキラ。何事かを考えながら、外を見ている。トレイの落ちた音が店内に響く。音がした方を見ると、落ちたトレイを片付けようとしている店員の横をスミレが「Sorry」と言いながらこちらに向かって駆けてきた。スミレはアキラの正面に座り、小さい体で大きく伸びをする。
「それ、美味しい?」
「ああ。特にこの辺り」
「その辺り?」
「そう。こんぐらい砂糖がついているところが抜群に美味い」
「へぇー」
「食べてみるか?」
スミレは悲しげに横を見て、
「あれ以来、飲み物以外ダメなんだ」
「スミレ、今幸せか?」
「Of course!アキラと一緒にいるんだよ」
「じゃあ、食べれるさ」
アキラはドーナツを小さくちぎって差し出す。
「本日の一番美味いところだ」
躊躇しながらも口を開けるスミレ。アキラがドーナツを放り入れる。口を閉じるスミレ。
「飲み込むなよ。甘い味がじんわり口の中に広がる。耳に近いほっぺたがきゅんとする。『ほっぺが落ちそう』ってのが、それだ。ゆっくりかんで」
アキラが飲んでいたミルクをスミレに差し出す。
「ゆっくり飲みな」
スミレがゆっくりとミルクを飲み干し、にっこりと微笑む。二人は小一時間とりとめもない話を楽しんだ。
「じゃあ、また」
「ああ」
スミレは立ち上がると、出口に向かった。
アンコールの二曲目を歌い終えたスミレの前にマイクスタンドが上がってきた。マイクスタンドにかけてあったヘッドセットマイクをスミレはスティーブに投げ渡す。受け取ったスティーブが慌ててヘッドセットマイクをつけた。スミレはマイクスタンドにマイクをセットして、フィリーとスピードを手招いた。スピードはダッシュでスミレの横に立った。手ぶらで来ようとしたフィリーに対して、スミレが下におかれたタンバリンを指差す。タンバリンを持ってフィリーもスミレの横に立った。スミレが大輪の花のような笑顔で振り返りながらスティーブに呟く。
「Go! Steve.」
スティーブはマーチにのせて、豚や犬・猫などの鳴き声を響かせた。吹き出すスミレ。スピードがギターをかき鳴らし、フィリーが踊りながらタンバリンを叩く。スミレはスキャットで歌いだした。歌いながらスピードとフィリーを手招く。スピードとフィリーも歌いだし、スティーブも負けじと歌いだした。スミレが観客席に向かって叫んだ。
「Come on!」
観客も歌いだした。
スティーブが叫ぶ。
「I love guitar!」
スティーブがニヤッと笑いながらフィリーを見る。
フィリーが叫ぶ。
「I love music!」
スティーブも観客を両手で指差して叫ぶ。
「I love you!」
スピードがスミレにウインクする。スミレが誇らしげに言った。
「I love you, Akira.」
やんやの喝采が沸き起こる。スミレは観衆に投げキスをして、全力で歌い始めた。スピードのギターも鋭さを増す。フィリーも戻って、ドラムを叩きはじめた。すごく楽しい歌をキラキラと輝く無数の音が彩る。スミレの歌が数オクターブを駆け上がり、曲は一気に幕を閉じた。割れんばかりの大きな拍手と歓声に包まれる会場。
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