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黒いiPodから始まった事件はどこへ向かうのか…。
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「解せないな」
「何がですか?」
「スミレのファンのお前がどうして、スミレの事件を差し置いて、彼の小学生の頃の事件の方に興味を持ったんだ」
「スミレの事件のことは、山崎さんから聞きました」
「山崎って、あのロック研究会の?」
「そうです。彼は現場にいたんです」
「そうだったのか。で、あの事件は今回の事件に関係ないってことか」
「それは分かりません」
「彼が小学生の時の事件。あれも謎のままだ。旅行先での出来事だった。山中のホテルから銃の音や人の叫び声が聞こえるという知らせを聞いて、地元の人たちとホテルに行った。だが、全ては終わっていた。ホテルに泊まっていた人たちも銃を持って襲った奴等も死んでいた。彼だけが生き残っていた」
「彼だけですか!?女の子はいませんでしたか?」
さくらは首を横に振って言った、「生き残っていたのは彼だけだ。彼の父親も殺されていた。泣き叫ぶこともなく、ホテルから歩いて出てきた。俺が警察の人間だと知って、俺を睨みつけていたよ。泣かない彼を見て、俺は戸惑った。ひどく大人に見えたんだ。普通だったら、悲惨な出来事に精神的なダメージが大きすぎたんだと思うところなんだが、彼の精神にはこれっぽちも曇りがないとしか思えなかった。ただ、目が警察の無力さを軽蔑していた。婦人警官が彼に何があったのか聞いたんだが、彼は何も話さなかったそうだ」
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アキラがにやりと微笑んで一歩踏み出す。清水の動きがぴたりと止まった。アキラの手足が清水の体にタッチしながら、清水の動き出しを押さえ込んでいる。あせる清水。右脚が自由になり下からの蹴りを繰り出すが、アキラはそこにいなかった。少し横に移動していたアキラは、足を軽く清水のヒップに当てた。ふわりと浮き上がる清水。アキラは清水を右手で叩き落して、後ろへ跳んだ。顔をゆがめて立ち上がる清水。
「お前の方が私よりも速いというのか」
「違う」
「まやかしか」
「そんなもの、あんたには通用しない」
「…」
「俺は訓練によって悪魔の力を手に入れた」
「悪魔!?ふざけたことを」
アキラが清水に向かってダッシュした。待ち受ける清水。アキラの右手の掌底が突き出される。コンタクトする前に清水はスウェーバックを始め、アキラは右手を引き始める。繰り出される清水の膝蹴り。アキラはその膝蹴りに膝蹴りを当てて加速する。浮き上がった清水に体当たりするアキラ。清水は壁に激突し、壁を背に落下して座り込んだまま動けない。
「悪魔か…なるほど」
「あんたなら分かると思ったよ」
アキラが右手を出す。清水はその手をはたいて立ち上がった。
「頼みとは何だ?」
「とびっきりクールな義手を作ってほしい」
「分かった。左手をなくすようなぼんくらに最高の義手をつくってやる。その代わりにお前が守っているものを教えろ」
「頼み?ふざけるな。よくこの部屋に来てくれたな。この部屋だったら、お前を殺しても誰にもばれない」
「俺を殺して何になる」
「問答無用!」
清水が蹴り上げた足に左手を出すアキラ。義手が吹っ飛ぶ。清水の蹴り上げた足のかかとがアキラの脳天に叩き落とされる。アキラは右腕で清水の脚をいなしなす。
「大怪我したとは聞いていたが、左手をなくしたのか。ざまあないな」
次々と蹴りを繰り出す清水。その速さは常軌を逸しており、アキラは防戦一方となっている。闘いながら二人は話した。
「殺すと言ったのは本気だ」
「なぜ、俺を殺す」
気がつくと、すべての曲が終わり、部屋の中は静けさに包まれていた。
「『レッド』をもう一度かけますか?」
リョウが春日に尋ねた。
「いえ、いいです」
リョウが『レッド』のパッケージを手に取って見つめる。
「すべてが真っ赤なパッケージ。この色が血を連想させることから、ファンは事件当日スミレが着ていたウェディングドレスの色・ピンクをこのアルバムの呼び名にした。でも、私はこの色は彼女が事前に決めていた色だと思っています。ライブで彼女は真っ赤なドレスにお色直ししたのではないでしょうか。彼女の情熱的な愛を語るのにふさわしい色だと思います」
「そうですね。スミレが彼を思う気持ちを表す色は赤しかないのかもしれない…。あなたの言うとおり、彼らがまだ小さかった時に何か事件があったのでしょう。調べてみますよ」
「清君に好意をもっていただけましたか?」
春日は首を横に振った。
「いいえ。彼のさくらさんや徳川さんに対する態度は許せません。彼はあなたのビジョンを利用して敵と闘った。行動はビジョンを変えることができる。私はあなたが見たビジョンのように考え込んだりしません。彼が法を犯せば全力で逮捕する。それだけですよ」
リョウは穏やかな笑顔を浮かべて春日の目を見た。
「捜査に私情は持ち込みません」
「清君の左手は義手です」
「たとえそれが警察のせいだとしても、捜査には関係ありません」
「彼の義手を作ったのは誰だと思います?」
「義手のことはよく知りません」
リョウがにやにやしている。
「!?もしかして、私が知っている人ですか?」
リョウが頷いた。
「でも、義手を作れる人に心当たりは…」
「今日の話に出てきた人です。聖都大学の研究・技術力は世界にひけをとりません。いえ、世界一のものも持っています」
「彼に関わった大学の先生か…」
宙を見ながらリョウの話を思い出している春日。その顔に驚きの色が現れる。
「まさか…」
「そのまさかです。清君同様中学卒業とともに満点でこの聖都大学に入学した清水先生」
「でも、二人は犬猿の仲でしたよね」
「二人がどうして憎み合っていたのか、どうやって手を組んだのかは謎です。でも、今の彼らを見ているのは楽しいですよ。喧嘩ばかりしている仲のいい姉弟みたいです」
個室のベッドで穏やかな顔をして眠っているスミレ。しかし、その姿はどこか儚かった。

「あんたたちに何の話をすれば、スミレが目を覚ますっていうんだ」
ベッドに起きているアキラはさくら刑事と徳川刑事に吐き出すように行った。
「スミレさんを撃ったのは別の人間だ。そいつを捕まえたい」
「それはあんたたちの仕事だ。スミレや俺には関係ない」
「君は警察は何もできないと思っているようだが、徳川さんは身を挺して君たちを守ろうとしたんだぞ」
ため息をつくアキラ。
「あの時、そのじいさんが余計なことをしなければ、あいつが銃を撃つ前に銃を蹴り飛ばせた」
「強がりを言うんじゃない」
「いや、彼の言うとおりだ。清君、私は君にどう詫びればよいのか分からない。だが、あの時はああするしかなかったんだ」
徳川は深々と頭を下げた。
「謝らなくていいよ。だけど、自分の命は大切にしな。死んだらもう誰も守れなくなる」
アキラが寂しげな目をしたその時、上から爆発音が轟いた。
「見てきます。徳さんはここにいてください」
さくらが部屋から飛び出した。
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