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『S』のジャパン・ライブ。スピードとフィリーによる一曲目の演奏が終わり、ガラガラだった客席は満員になり、興奮に包まれていた。楽しげなスティーブ。スティーブとフィリーはステージ中央をジッと見ている。ステージ中央の床が下がり、上がってきた。一人の少女がマイクを持って立っていた。エアリーな束感のマニッシュなショートボブの黒髪。クラッシュ加工された白のタンクトップの下には真っ赤なシルクのキャミソール。レザーの黒いショートパンツにガンメタリックの黒いハイヒールグラディエーター。少女の顔に笑みはなく、ただ怒りがあった。
+ + + + + + + + + +
客席からの大きな拍手。「スミレ!」と叫ぶ声も聞かれる。スミレは肩幅より少し広く足を開き、やや前傾姿勢でマイクを口元に持ってくる。少しかすれた強い歌声が会場をつらぬく。湧き上がる歓声。
「驚きましたよ。ロンドンの時からさらに声量を増した強いボーカル。しかし、あの艶を持った声が、かすれ声になっていた。ジャパン・ライブのコンセプトは深い怒り。闇の中でいくら叫んでも、希望の光はさしてこない。怒りの中、流れるのは誰にも見えない血の涙。コンセプトにあった素晴らしいボーカルです。でも、そのためにあの素晴らしい声が死んでしまった。僕はあまりのショックに呆然としましたよ。
「でも」
「ええ。完全に騙されました」
スピードとフィリーが食い入るようにスミレを見ている。
「スピードとフィリーを見てください。彼らもスミレの声のことを知らなかったようです。ジャパン・ライブはぶっつけ本番だったと思います。ライブのコンセプトと構成だけが決められていた。多分一曲目はスピードとフィリーに任せられ、彼ら二人は打ち合わせしてたんでしょうね。二曲目はスミレの歌から始まることしか伝えられていなかったのじゃないかな」
荒れ狂う炎のようなスミレのボーカル。フィリーが一曲目よりも激しい大波のようなドラムを叩き始める。舌打ちするスピード。スピードは入るタイミングをつかめずにいる。そんなスピードを見て、スティーブは首を横に振り、キーボードが地響きのような重低音を放つ。フィリーがにやりと笑う。激しい曲が続く中、サーファーが軽やかに波に乗るかのように、スピードのギターが疾走する。歓声がひときわ大きくなる。少し驚いた顔をするフィリー。スティーブは首を横に振る。スミレがスピードをにらみつける。
「やっちゃったんですよね」
「!?」
「スピードですよ」
「すごく格好いいじゃないですか」
「ええ、確かに格好はよかった。彼のテクニックをフルに使って、軽やかに入ってきた」
「観客席も盛りあがりましたよ」
「盛りあがったのは一瞬。もう、観客は彼のギターを聞いていません」
スピードはギターを弾くのをやめる。
リョウがため息をつく。
「ロンドンから格段と力をつけたスミレのボーカルに、フィリーとスティーブは正面から力でぶつかっていきました。全力でぶつかり合うパワープレイ。なのに、スピードはテクニックで入ってきた。パワープレイの中に力のないものが入ってくれば、当前弾き出される」
三人による曲が終わり、拍手の渦が沸き起こる。うなだれているスピード。そんなスピードを静かに見ているスミレ。
「スピードは涙を流していました」
「え?」
「見えたんですよ」
スミレがマイクを下ろしたまま、スティーブに「Steve! Solo play!」と叫ぶ。スティーブは首をすくめた後、空を見上げる。静寂が訪れる。スティーブが右の人差し指一本でゆっくりとキーボードを弾き始めた。なんとも頼りなげな演奏にざわつく観客。ある音で指が止まる。同じ音が繰り返される。次第に強くなっていく音。スティーブの両手が高く上がり、和音など関係なく鍵盤を叩きはじめる。ほほ笑むスミレ。満面笑顔のフィリー。観客たちも手拍子を始める。強く流れる不協和音は、だんだんと整い、強さはそのままにゴスペル・ミュージックへと変わっていく。神を叩き起こそうとしているかのような強い音。
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「驚きましたよ。ロンドンの時からさらに声量を増した強いボーカル。しかし、あの艶を持った声が、かすれ声になっていた。ジャパン・ライブのコンセプトは深い怒り。闇の中でいくら叫んでも、希望の光はさしてこない。怒りの中、流れるのは誰にも見えない血の涙。コンセプトにあった素晴らしいボーカルです。でも、そのためにあの素晴らしい声が死んでしまった。僕はあまりのショックに呆然としましたよ。
「でも」
「ええ。完全に騙されました」
スピードとフィリーが食い入るようにスミレを見ている。
「スピードとフィリーを見てください。彼らもスミレの声のことを知らなかったようです。ジャパン・ライブはぶっつけ本番だったと思います。ライブのコンセプトと構成だけが決められていた。多分一曲目はスピードとフィリーに任せられ、彼ら二人は打ち合わせしてたんでしょうね。二曲目はスミレの歌から始まることしか伝えられていなかったのじゃないかな」
荒れ狂う炎のようなスミレのボーカル。フィリーが一曲目よりも激しい大波のようなドラムを叩き始める。舌打ちするスピード。スピードは入るタイミングをつかめずにいる。そんなスピードを見て、スティーブは首を横に振り、キーボードが地響きのような重低音を放つ。フィリーがにやりと笑う。激しい曲が続く中、サーファーが軽やかに波に乗るかのように、スピードのギターが疾走する。歓声がひときわ大きくなる。少し驚いた顔をするフィリー。スティーブは首を横に振る。スミレがスピードをにらみつける。
「やっちゃったんですよね」
「!?」
「スピードですよ」
「すごく格好いいじゃないですか」
「ええ、確かに格好はよかった。彼のテクニックをフルに使って、軽やかに入ってきた」
「観客席も盛りあがりましたよ」
「盛りあがったのは一瞬。もう、観客は彼のギターを聞いていません」
スピードはギターを弾くのをやめる。
リョウがため息をつく。
「ロンドンから格段と力をつけたスミレのボーカルに、フィリーとスティーブは正面から力でぶつかっていきました。全力でぶつかり合うパワープレイ。なのに、スピードはテクニックで入ってきた。パワープレイの中に力のないものが入ってくれば、当前弾き出される」
三人による曲が終わり、拍手の渦が沸き起こる。うなだれているスピード。そんなスピードを静かに見ているスミレ。
「スピードは涙を流していました」
「え?」
「見えたんですよ」
スミレがマイクを下ろしたまま、スティーブに「Steve! Solo play!」と叫ぶ。スティーブは首をすくめた後、空を見上げる。静寂が訪れる。スティーブが右の人差し指一本でゆっくりとキーボードを弾き始めた。なんとも頼りなげな演奏にざわつく観客。ある音で指が止まる。同じ音が繰り返される。次第に強くなっていく音。スティーブの両手が高く上がり、和音など関係なく鍵盤を叩きはじめる。ほほ笑むスミレ。満面笑顔のフィリー。観客たちも手拍子を始める。強く流れる不協和音は、だんだんと整い、強さはそのままにゴスペル・ミュージックへと変わっていく。神を叩き起こそうとしているかのような強い音。
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