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リョウが春日にスミレ達の初ライブの話を始めた。
「彼らのライブが告知されたのは一昨年の1月1日、インターネットのロック・ライブの告知掲示板だった。
ボーカル スミレ 16歳 日本
ギター スピード 24歳 アメリカ
キーボード スティーブ 28歳 南アフリカ
ドラム フィリー 50歳 イギリス
1月8日 ライブハウス・ドイル
チケット配布中
これだけでした」
「彼らのライブが告知されたのは一昨年の1月1日、インターネットのロック・ライブの告知掲示板だった。
ボーカル スミレ 16歳 日本
ギター スピード 24歳 アメリカ
キーボード スティーブ 28歳 南アフリカ
ドラム フィリー 50歳 イギリス
1月8日 ライブハウス・ドイル
チケット配布中
これだけでした」
+ + + + + + + + + +
「それで分かるのですか?」
「スピードとフィリーは有名ですからね。ただ、あまりにもシンプルな告知だったので、悪戯じゃないかと誰もがおもったようです。スピードとフィリーには接点がなかったし、誰も予想できない組み合わせだったから。ところが、スピードに心酔している学生がいた。スピードのギターテクニックがいつの日かミュージックシーンを塗り替えるに違いないと信じていた。そして、フィリーとの共演こそがそのチャンスだと感じた」
「それって」
「ええ、僕です。インターネットでライブハウス・ドイルがロンドンにあることを知り、連絡をとろうとしたのですが、半年前に閉店していて連絡がとれなかった」
「どうしたんですか?」
「すぐにロンドンに飛びました」
「無茶しますね。悪戯だったかもしれないのに」
「騙されても大したことないけど、このライブを見逃したら一生後悔すると思いました。ロンドンについたら、ライブハウスに直行しました。入り口には白スーツにサングラスのいかつい男が二人、中には老婆が一人いただけでした。老婆は僕に誰のファンなのか尋ね、ファンであることの証明を要求しました。僕はスピードのことを熱く語りました。老婆を試そうとして嘘を混ぜた途端、老婆はそっぽを向いてしまった。懸命に謝って、なんとかチケットを手に入れることができました」
「いくらでした?」
「無料です」
「無料…」
「老婆にスミレとスティーブのことを聞いたのですが、老婆は何も教えてくれなかった。詳細をブログにアップすると、大騒ぎになった。スピードが自分のブログからトラックバックしてきたのですよ。『おまえら、ぶったまげるぜ。楽しみにしてな』って。イギリスを中心にフィリーのファンが殺到。アメリカからはスピードのコアなファン。結果、チケットを手に入れたのはほとんどがフィリーのファン。スピードのファンが数名。スティーブの友達が一人。仲間で金を集めて、代表で一人だけがロンドンに来たそうです」
「スミレの関係者は?」
「いなかったと思います。ライブに関してはいろいろな噂が流れましたが、多くの人が信じたのは、日本の大金持ちが娘のために開くライブで、フィリーとスピードは大金をつまれて出演するというものでした。フィリーもスピードも本気じゃない。だから、ファンの俺たちが本気で演奏させてやるなんていう風に盛り上がってました」
「そうだったんだ。何だか悔しいな」
「仕方ないですよ。スミレのことを誰も知らなかったのですから。でも、イギリスの音楽ファンってのは間口が広くて、いろんな音楽やミュージシャンを受け入れる懐の深さがあるんですよ。だから、彼らはフィリーの演奏を楽しみにしていたのはもちろんとして、何か新しいものを期待していたのかもしれません」
「イギリスってすごいですね」
頷くリョウ。
「彼らをプロデュースした男もすごいと思いますよ。『ブラック』のときに話をしたのですが、とても聡明な感じがしました」
「会ったのですか?」
「いや、彼と会ったことはありません。電話で話しただけです。彼のことは、『ブラック』のときに話しますよ」
「はい」
「ライブ当日。客席は同窓会のような楽しげな雰囲気で賑わっていました。ブザーが鳴ると、拍手が起こり、フィリーやスピードを呼ぶ声があちこちで起きていた。アナウンスが『ボーカル スミレ 16歳 日本』と告げると、フィリーやスピードの登場を心待ちにしている観客たちは、拍手もせずに好奇の目をステージに向けました。金切り声で歌う着物ガールでも予想していたのでしょう」
「山崎さんは、スミレのことをどう予想してました?」
「私ですか…正直な話、あまり興味ありませんでした。パンクぶった娘とか、クラッシュのブルージーンに白いシャツのカラオケ上手な娘を想像してたかな。登場したスミレを見て、ライブハウスは落胆の溜め息に包まれた」
「スピードとフィリーは有名ですからね。ただ、あまりにもシンプルな告知だったので、悪戯じゃないかと誰もがおもったようです。スピードとフィリーには接点がなかったし、誰も予想できない組み合わせだったから。ところが、スピードに心酔している学生がいた。スピードのギターテクニックがいつの日かミュージックシーンを塗り替えるに違いないと信じていた。そして、フィリーとの共演こそがそのチャンスだと感じた」
「それって」
「ええ、僕です。インターネットでライブハウス・ドイルがロンドンにあることを知り、連絡をとろうとしたのですが、半年前に閉店していて連絡がとれなかった」
「どうしたんですか?」
「すぐにロンドンに飛びました」
「無茶しますね。悪戯だったかもしれないのに」
「騙されても大したことないけど、このライブを見逃したら一生後悔すると思いました。ロンドンについたら、ライブハウスに直行しました。入り口には白スーツにサングラスのいかつい男が二人、中には老婆が一人いただけでした。老婆は僕に誰のファンなのか尋ね、ファンであることの証明を要求しました。僕はスピードのことを熱く語りました。老婆を試そうとして嘘を混ぜた途端、老婆はそっぽを向いてしまった。懸命に謝って、なんとかチケットを手に入れることができました」
「いくらでした?」
「無料です」
「無料…」
「老婆にスミレとスティーブのことを聞いたのですが、老婆は何も教えてくれなかった。詳細をブログにアップすると、大騒ぎになった。スピードが自分のブログからトラックバックしてきたのですよ。『おまえら、ぶったまげるぜ。楽しみにしてな』って。イギリスを中心にフィリーのファンが殺到。アメリカからはスピードのコアなファン。結果、チケットを手に入れたのはほとんどがフィリーのファン。スピードのファンが数名。スティーブの友達が一人。仲間で金を集めて、代表で一人だけがロンドンに来たそうです」
「スミレの関係者は?」
「いなかったと思います。ライブに関してはいろいろな噂が流れましたが、多くの人が信じたのは、日本の大金持ちが娘のために開くライブで、フィリーとスピードは大金をつまれて出演するというものでした。フィリーもスピードも本気じゃない。だから、ファンの俺たちが本気で演奏させてやるなんていう風に盛り上がってました」
「そうだったんだ。何だか悔しいな」
「仕方ないですよ。スミレのことを誰も知らなかったのですから。でも、イギリスの音楽ファンってのは間口が広くて、いろんな音楽やミュージシャンを受け入れる懐の深さがあるんですよ。だから、彼らはフィリーの演奏を楽しみにしていたのはもちろんとして、何か新しいものを期待していたのかもしれません」
「イギリスってすごいですね」
頷くリョウ。
「彼らをプロデュースした男もすごいと思いますよ。『ブラック』のときに話をしたのですが、とても聡明な感じがしました」
「会ったのですか?」
「いや、彼と会ったことはありません。電話で話しただけです。彼のことは、『ブラック』のときに話しますよ」
「はい」
「ライブ当日。客席は同窓会のような楽しげな雰囲気で賑わっていました。ブザーが鳴ると、拍手が起こり、フィリーやスピードを呼ぶ声があちこちで起きていた。アナウンスが『ボーカル スミレ 16歳 日本』と告げると、フィリーやスピードの登場を心待ちにしている観客たちは、拍手もせずに好奇の目をステージに向けました。金切り声で歌う着物ガールでも予想していたのでしょう」
「山崎さんは、スミレのことをどう予想してました?」
「私ですか…正直な話、あまり興味ありませんでした。パンクぶった娘とか、クラッシュのブルージーンに白いシャツのカラオケ上手な娘を想像してたかな。登場したスミレを見て、ライブハウスは落胆の溜め息に包まれた」
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