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黒いiPodから始まった事件はどこへ向かうのか…。
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スミレたちのロンドン・ライブの話を春日にしているリョウ。
「スミレがステージから下がって、二曲目が始まりました。スピードのギターからです。一曲目のアグレッシブな感じと違って、とても繊細に弾いてました。うっとりしましたよ。そこに乗っかってくるスティーブのキーボードが実にスバらしかった。スピードのギターの邪魔を全くせずに、ギターの音が引き立っていました。フィリーのドラムが静かに加わってくる。とても美しい時間だったのですが…」
「?」

+ + + + + + + + + +
「音が綺麗なだけにスミレのいない物悲しさが強く感じられました。そして三曲目。スミレがステージに戻ってきました。すごい歓声と拍手でした。全員、スミレのファンになっていましたからね」
春日は嬉しそうに水割りをグッと飲み干す。
「三曲目はスミレのソロです。一曲目と曲は同じでしたが、一曲目の時のように音程を変えてみたり、違うメロディーをはさんでみたりというようなテクニカルなことはせずに、素直に歌ってました。ソロだけに、彼女の歌の凄さがストレートに伝わって来ました。彼女が本格ロック・ヴォーカリストの新しいスターであることは間違いありませんでした。スピードは凄くギターを弾きたがってましたね。指がギターの上で動きたがっているのが、客席からも分かりました。フィリーも同様。二人ともお預けをくわされた犬状態。スティーブは彼女の歌を楽しんでいるようでした。三曲目が終わり、拍手と歓声の中、彼女は片手をあげて、再びステージを下がりました」
「二回ともステージからいなくなってたのですね。ステージにいるのだとばかり思っていました」
「推測なのですが、彼女は休んでいたのだと思います。あの体であのヴォーカルです。全身の力で歌っていたのでしょう。連続して歌うだけの体力がなかったのですよ。しかもワンステージ三曲が精一杯だった」
「そんなギリギリの状態だったのですか!?」
「ええ。間違いありません。今から思うと、彼女の目的はジャパン・ライブで、ロンドン・ライブはそのためのトライだったのでしょう。トライだからこそ、全力でやる必要があった。少しも手を抜けないので、選んだのが、あの曲構成」
「ストーリー仕立ての構成の裏にはそういう理由があったのですね」
「ストーリー仕立てですか。そういう説もありますね。『ホワイト』のテーマは悲しみ。一曲目、悲しむ少女と三人の男の出会い。二曲目、男たちは話し合うが、まとまらない。三曲目、一人悲しむ少女。四曲目、男たちは本気で話し合い、結束する。五曲目、悲しむ少女を三人が慰める。しかし、少女の悲しみは深く、男たちは見守るしかなかった」
「そう、それ、それです」
「音楽って色々な解釈が成り立って、それがまた楽しいものですからね」
「山崎さんは、違う考えですか?」
「『ホワイト』のテーマが癒せぬ悲しみであるのには賛成です。でも、ストーリー仕立ては考えすぎな気がしますね。先ほど言ったように、スミレは三曲歌うのが精一杯。しかも、間に休みを入れないといけない。それで、彼女が歌う三曲の間に一曲ずつ入れることになった。一曲目はテクニックの確認をしながらの肩慣らし」
「あんなにすごいのに!?」
「もちろん、全力で演奏していますが、やはり四人で初めてのライブですからね。自分の力と周りとのバランスを見ながらだと思います。二曲目で三人の調整が行われ、三曲目でスミレの最終調整が完了。四曲目で三人の最終調整が完了。そして、五曲目をあの時点で彼らが出来る最高の演奏にした」
「なるほど」
「あくまでも私説です。気にしないでください。話を戻しましょう。スミレがステージから下がり、四曲目が始まりました。スピードのギターからです。もう、あれは凄かった。スミレがいなくなって下がりかけたテンションが一気に跳ね上がりました。彼が全力で弾くギターは凄まじかった。フィリーのドラムがそれに負けていない。男同士の一騎打ちですよ。スピードが歯を食いしばって弾いているのが分かりました。とにかく、考えられない数の音でした。もうこれ以上は無理だというときにスティーブのキーボードが入ってきて、スピードとフィリーが笑顔を交わします。そこからは激しさに軽やかさが加わり、とても楽しく、踊りだしたくなりました。四曲目が終わり、スミレがステージに戻って来ました。もう、やんやの大拍手です。五曲目。キーボードから楽しく始まりました。ドラムの音が踊りだし、ギターが軽やかに入ってきました。とても綺麗なギター。あれこそが本当のスピードだと思います。そこにスミレのヴォーカルがガツンと入ってくる。全ての音が躍動する。悲しい歌なのに至福の時間でした。ギター、キーボード、ドラムと音が消えていき、スミレの『You loved me.』。この後、3分もの間、どうして静かだったか分かりますか?」
「いえ、それが不思議でした」
「スミレが祈っていました」
「祈っていた…」
「彼女には、本当に悲しいことがあり、祈る必要のある人がいた…そういう風に感じました。彼女は涙を流しながら一心に祈っていました。彼女のために祈る者、彼女と一緒に自分の大切な人のことを祈る者、彼女を見守る者…。そして、彼女はつぶやいた『I love you.』。CDはここまでです。ライブハウスでは、彼女がつぶやいた直後、明かりが消えて真っ暗になりました。漆黒のステージ奥から『Thank you!』と彼女の声が響くと、誰かが『Thank you, mam!』と叫んだ。『Thank you, mam!Thank you, mam!Thank you, mam!』皆が叫びました。明かりがついたとき、ステージには誰もいません。30分弱のライブでしたが、みんな満足していました。誰かと目が合うと微笑んでしまう。帰りたくない、でも、もうここに彼らはいない」
リョウは涙していた。
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