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帝都大学ロック同好会の部屋。リョウがスミレたちのロンドン・ライブについて春日に話している。登場したスミレを見て、ライブハウスは落胆の溜め息に包まれたと聞いた春日は憤慨している。
「落胆だなんて、ひどいですよ」
春日は涙目になっている。
「落胆だなんて、ひどいですよ」
春日は涙目になっている。
+ + + + + + + + + +
「彼らもスミレに期待してたのですよ。歌は大したことないだろうから、せめて奇抜な恰好で驚かしてくれって。ところが、目の前に現れた少女はとても華奢で、あまりにも普通だった。カーキのバルーンキュロットに白のレースのチュニックと黒のキャミソール。シルバーのハイヒールグラディエーター。街で見かけるようなアジアの少女。違っていたのは長い銀髪。ロックを純粋に愛する彼らが落胆したのも分かってあげてください」
「山崎さんはどう思いました?」
「落胆している周りの雰囲気を感じていたのですが、見惚れてしまいました」
春日は満面の笑みを浮かべる。
「とても綺麗な立ち姿でした。瞳は強い意志を示していました。しかも、すごく涼しげな顔をしていた。普通だったら彼女に同情すべき状況だったのですが、考えつきもしなかった。次に呼ばれて出てきたのがスピード。スピードのファンたちの凄い歓声」
「山崎さんもですか?」
「いえ、私はそういうのは苦手ですから。次に、スティーブ。スティーブの友達が一人で大騒ぎしていました。そして、フィリー。ライブハウスが歓声の渦で溢れかえりました。地震のようでしたよ。何かに捕まっていないと倒れてしまいそうな感じでした。ドラムの前に座ったフィリー。歓声は止みません。その時、気がついたことがありました」
「?」
「フィリーの脚が小刻みに震えていました。フィリーでも久しぶりのライブに緊張するのかと思っていたのですが、後から考えると天才たちとの共演に緊張していたのでしょう。いつ終わるともしれない歓声。その時、スミレが凛とした落ち着いた声で言いました」
春日は餌を待っている犬のようにリョウの言葉を待っている。
「"Be quiet." 歓声がやみ、ざわめきだけが残りました。武家の姫様っていうのは、ああいう感じだったのでしょうか」
春日は小さくガッツポーズ。
「CDに入っているのは、ここからです。スミレはすぐにスピードの方を向きました。スピードは、とても子供っぽい笑顔で"Yes, mam"と言いました。スピードのファンたちはポカンとしてましたね。次にスティーブの方を向くと、スティーブはすぐに"Yes, mam"と応えました。そして、フィリーの方を向きました。フィリーがニヤリとして、"OK, Ms. Sumire"と言うと、客席にはフィリーのファンのほっとした空気が一瞬流れましたが、スミレはフィリーから目を離さず、じっと待ってました。客席に緊張感が走る中、スミレが何かワン・ワードつぶやくのが見えました。フィリーが照れくさそうに"Yes, mam"と言った途端、ライブハウスはすごく穏やかな空気に包まれました。その時でした」
「?」
「憑き物が落ちたかのように、フィリーがいい表情になりました。緊張がとけたのでしょうね。スミレが正面を向きました。みんなのmamです。強い意志を見せていた彼女の瞳が悲しみに沈み、顔から血の気が引いていっているようでした。歌うためにモードを変えていたんだと思います。肩幅に足を開き、やや前かがみになってマイクを口元に近づけました。客席が期待にあふれているのが感じられました。スミレが歌い始めました。あんな華奢な体から出てきたのは、ビックリするぐらい強い歌声でした。周りの空気がひっくり返ったような感じで、くらっとしましたよ。期待をはるかに上回る歌声に、大きな歓声が湧き上がりました。僕も思わず歓声をあげていました。ステージを見ると、スピード、スティーブ、フィリーの顔はとても誇らしげでした。フィリーがドラムを叩き始めました。初めて生で聞いた彼のドラムには心踊りました。10年もミュージック・シーンから退いていたのに根強いファンがいる理由が理解出来ました。そこにすーっとスティーブのキーボードが入ってきた。絶妙でしたよね。フィリーがとても嬉しそうな表情をしてました。そして、スピードのギター。僕が待ち望んでいたものでした。誰の真似でもないスピード・オリジナル。乱暴とも思えるほどアグレッシブなのに、一つ一つの音が輝くように美しい。涙が出てきて、止まりませんでした。一曲目も終わりにさしかかったときに気がついたのですが、僕の横で大男が「これがロックだ!これがロックだ!」と叫びながら号泣してました。夢のような時間でしたね。一曲目が終わり、スミレがステージから下がっていきました。彼女がいなくなるとは思いもしなかったので、ショックでしたね。抱きしめたくなるような華奢な背中を見ながら、こちらの方が心細い気持ちになっていました」
「山崎さんはどう思いました?」
「落胆している周りの雰囲気を感じていたのですが、見惚れてしまいました」
春日は満面の笑みを浮かべる。
「とても綺麗な立ち姿でした。瞳は強い意志を示していました。しかも、すごく涼しげな顔をしていた。普通だったら彼女に同情すべき状況だったのですが、考えつきもしなかった。次に呼ばれて出てきたのがスピード。スピードのファンたちの凄い歓声」
「山崎さんもですか?」
「いえ、私はそういうのは苦手ですから。次に、スティーブ。スティーブの友達が一人で大騒ぎしていました。そして、フィリー。ライブハウスが歓声の渦で溢れかえりました。地震のようでしたよ。何かに捕まっていないと倒れてしまいそうな感じでした。ドラムの前に座ったフィリー。歓声は止みません。その時、気がついたことがありました」
「?」
「フィリーの脚が小刻みに震えていました。フィリーでも久しぶりのライブに緊張するのかと思っていたのですが、後から考えると天才たちとの共演に緊張していたのでしょう。いつ終わるともしれない歓声。その時、スミレが凛とした落ち着いた声で言いました」
春日は餌を待っている犬のようにリョウの言葉を待っている。
「"Be quiet." 歓声がやみ、ざわめきだけが残りました。武家の姫様っていうのは、ああいう感じだったのでしょうか」
春日は小さくガッツポーズ。
「CDに入っているのは、ここからです。スミレはすぐにスピードの方を向きました。スピードは、とても子供っぽい笑顔で"Yes, mam"と言いました。スピードのファンたちはポカンとしてましたね。次にスティーブの方を向くと、スティーブはすぐに"Yes, mam"と応えました。そして、フィリーの方を向きました。フィリーがニヤリとして、"OK, Ms. Sumire"と言うと、客席にはフィリーのファンのほっとした空気が一瞬流れましたが、スミレはフィリーから目を離さず、じっと待ってました。客席に緊張感が走る中、スミレが何かワン・ワードつぶやくのが見えました。フィリーが照れくさそうに"Yes, mam"と言った途端、ライブハウスはすごく穏やかな空気に包まれました。その時でした」
「?」
「憑き物が落ちたかのように、フィリーがいい表情になりました。緊張がとけたのでしょうね。スミレが正面を向きました。みんなのmamです。強い意志を見せていた彼女の瞳が悲しみに沈み、顔から血の気が引いていっているようでした。歌うためにモードを変えていたんだと思います。肩幅に足を開き、やや前かがみになってマイクを口元に近づけました。客席が期待にあふれているのが感じられました。スミレが歌い始めました。あんな華奢な体から出てきたのは、ビックリするぐらい強い歌声でした。周りの空気がひっくり返ったような感じで、くらっとしましたよ。期待をはるかに上回る歌声に、大きな歓声が湧き上がりました。僕も思わず歓声をあげていました。ステージを見ると、スピード、スティーブ、フィリーの顔はとても誇らしげでした。フィリーがドラムを叩き始めました。初めて生で聞いた彼のドラムには心踊りました。10年もミュージック・シーンから退いていたのに根強いファンがいる理由が理解出来ました。そこにすーっとスティーブのキーボードが入ってきた。絶妙でしたよね。フィリーがとても嬉しそうな表情をしてました。そして、スピードのギター。僕が待ち望んでいたものでした。誰の真似でもないスピード・オリジナル。乱暴とも思えるほどアグレッシブなのに、一つ一つの音が輝くように美しい。涙が出てきて、止まりませんでした。一曲目も終わりにさしかかったときに気がついたのですが、僕の横で大男が「これがロックだ!これがロックだ!」と叫びながら号泣してました。夢のような時間でしたね。一曲目が終わり、スミレがステージから下がっていきました。彼女がいなくなるとは思いもしなかったので、ショックでしたね。抱きしめたくなるような華奢な背中を見ながら、こちらの方が心細い気持ちになっていました」
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