聖都大学前期入学試験当日。受験生たちが次々と門を入っていく、CBTのときの男性職員が門の脇でキョロキョロとしている。男性職員の顔がパッと明るくなる。あの時の少年を見つけて、駆け寄った。
「私だよ。覚えてるかい？」
「ああ、あの時の」
「ありがとう。君のおかげで勉強がはかどってるよ」
「おじさんにやる気があるからだよ。きっと試験通るよ」
少年が門を入っていく。
「頑張れよ!絶対、合格しろよ!」
少年は拳を天に突き上げる。男性職員は少年が受験生の波に飲み込まれた後もしばらくじっと見送り、門を背にしてゆっくりと歩き出した。
「あいつなら大丈夫。俺も頑張るぞ」

飛び入学受験成たちが受験する部屋。少年が入室して席につくと、後ろの受験生が話しかけてきた。
「俺は浜の天才、大場。新横浜高校だ。君は？」
「清」
「どこの高校？」
「中学生」
「へー！中学生なんだ！おい、みんなこいつ中学生だってよ。そっかー、しまったな。俺も中学生のときに受ければよかったよ。高校で無駄な人生過ごしちゃったな」
「うるさいぞ！」
「なんだ、お前、クイズチャンピオンの岡部じゃないか。頭よかったんだ。へー」
「お前なぁ！」
岡部が大場に掴みかかろうとしたとき、少年が間にすっと入って、いつの間にか岡部の腕をつかんでいる。
「やめようよ。馬鹿らしい」
少年は席につくと、机の上に伏せてしまう。
「そうだな、馬鹿らしい」
岡部が席についたとき、試験監督三人が入室した。物理の森本教授、重盛助教、数学の山崎助教。森本が黒板に『受験科目：物理　試験時間：10:00-12:00』と大きく書く。
「これから物理の試験を始めます。トイレに行きたい人は、今のうちに行ってください」
多くの受験生がトイレに急ぐ。
「け！緊張してるのかよ。どいつもこいつも、大したことないな」
大場が言い放ち、何人かの受験生に睨まれるが、どこ吹く風とにんまりしている。トイレに行った受験生たちが戻り、注意事項が森本によって告げられた。問題用紙と答案用紙が配られ、緊張の時間が過ぎる。
「解答始め！」
むくりと起き上がる少年。山崎がじっと少年を見ている。
『彼が清アキラ…』
アキラは山崎の視線に気づいた。山崎が軽く頭を下げる。アキラは山崎に微笑み、試験に取り組み始める。

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