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黒いiPodから始まった事件はどこへ向かうのか…。
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ノックされるのを待っていたかのように、すぐに扉が少し開き、外をうかがう男の姿が見えた。40代前半だろうか、少しぽっちゃりしていて目には知性よりも幼さが感じられる。
「伊田先生ですか?」
徳川に尋ねられて、男は小さく頷いた。
「警察のものです」
「どうぞ」

+ + + + + + + + + +
伊田は扉を大きく開けると、二人を共同机の方へ案内した。こじんまりとした部屋で、伊田の机と共同机の他は壁の書架とあちこちに積まれた本で満たされていた。伊田の机の上のパソコンモニターは隅に追いやられ、所狭しと本や紙で充満している。
「お忙しいところ、すいません」
徳川と春日は、共同机のパイプ椅子に並んで腰を下ろした。伊田は二人の向かい側に座り、涙目の春日に気づく。
「どうかされたんですか?」
「あ、こいつ花粉症なんですよ。マスクしろっていつも言ってるんですがね。どうも、本人は花粉症だって認めたくないようなんですよ」
春日は徳川に感謝しながら、ぺこりと頭を下げた。
「昨日のうちの学生の爆発事故のことだと伺いましたが」
「そうなんですよ。彼のメモが見つかりましてね。そこに『伊田』って書かれてたので、先生のことじゃないかなと思いまして」
「メモですか」
「なんて書いてあったんだっけ?」
「伊田 グリセリン 硝酸 硫酸」
徳川は、表情のない目で伊田のほうを見た。伊田は不思議そうな顔をしている。徳川は何も聞こうとはしない。伊田は部屋の中にある隣の部屋への扉を見ながら、
「グリセリン、硝酸、硫酸、全て隣の部屋にありますけど…それが何か?」
「研究のためですか」
「当たり前ですよ。私物のわけないでしょ」
「何の材料か分かりますか?」
「ニトログリセリンでしょ…もしかして私を疑ってるんですか。そんなわけないでしょ。なんで、私が知りもしない学生の家を爆破しなきゃならないんですか!」
伊田は立ち上がって、頭をかきむしりながら動物園の動物のようにうろうろと歩き出す。徳川はゆっくりと立ち上がる。それを見た春日は慌てて立ち上がり、パイプ椅子が倒れて大きな音が響き渡る。
「あー、ふざけないでくださいよ。私は関係ないですよ。関係あるわけないでしょ」
「先生、落ち着いてください。先生のことは疑ってませんから」
「警察はみんなそんなこと言うんだろ」
「むしろ先生は被害者じゃないかと思っているんですよ」
伊田は立ち止まり、
「被害者?」
「隣の部屋から盗まれたんじゃないかと思うんですよ」
「な、なに言ってんだ。ちゃ、ちゃんと鍵かけてあるんだから。盗まれるわけなんてない」
伊田は机に置いてある鞄から鍵を取り出し、隣の部屋への扉を開けてぎょっとした。誰もいないはずの部屋に一人の男が立っていた。
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