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黒いiPodから始まった事件はどこへ向かうのか…。
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さくらは、ベンチに座って俯いたまま考え事をしていた。かんかんでりの日差しが飲み込まれたかのようにさえぎられる。思わず視線を上げてぎょっとした。襲い掛かられる!熊!?いや、それは大男だった。身長は二メートルを超えているに違いない。鍛え上げられた筋肉の鎧がタンクトップを引きちぎりそうだ。熊というよりはマウンテンゴリラに近い。

+ + + + + + + + + +
「大丈夫かい?」
「あ、ああ、大丈夫だ」
「気分悪いんだったら、日陰に行った方がいいよ」
「ありがとう。考え事してただけだから」
「そっか。邪魔しちゃったね」
「たいした考え事じゃないから。それにしても君、すごい筋肉だね」
大男は満面に笑みを浮かべた。すごく若い。ここの学生だろう。その子供っぽい笑顔は春日のようだ。
「すごいでしょ。鍛えてんだ。じゃあね」
まぶしい日差しがさくらの目を射る。ゆっくりと歩く大男をさくらは目で追った。小柄でやけに細い女が大男に近づいた。白いミニスカートからは細い脚が伸び、白のポロシャツに白のサンバイザー。いまどきの小さな可愛い顔が微笑んでいる。まるでアイドルのようだ。アイドルか…さくらは悲しげな顔をした。どうやらなにかのアンケートをとっているようだ。キャンペーンガールだろうか。大男は嬉しそうにニコニコしながら女の問いに答えている。女は用紙に書き込んでいる。細くて長い指。すぐにも壊れてしまいそうだ。大男と女を見ていてさくらは違和感を感じた。夢を見ているかのようだ。これはいい夢なのか…。大男が何か驚いている。女は白いミニスカートのポケットから赤い何かを取り出し、大男に渡した。さくらの血の気が引いた。まるで女から血が噴き出したかのように見えたからだ。赤いものは大男の手の平にすっぽり収まり、大男はガッツポーズをしている。二人が離れていく。さくらは夢から覚めたかのように頭を振り、女に近づいた。
「アンケートですか?」
「ごめんなさーい。学生さんへのアンケートなの」
「何か赤い物渡してたよね」
「おじさん、私忙しいの」
女は背を向けて歩き出す。さっき、大男と話していたときとはイメージが全く異なっている。これは、悪い夢なのか…。さくらは大男を探したが、もうその姿はどこにもなかった。女は足早に離れていく。女の横を学生たちが通り過ぎていく。女はアンケートをとろうとしない。アンケートは終わったのか…。嫌なおじさんから早く離れたいのか…。それとも…。
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