さくらが女を追おうとしたその時、
「さくらさん、調べてきましたよ」
さくらは夢のような世界から現実へと引き戻された。春日から視線を戻したが、もう女の姿は見当たらない。俺はまた間違いを犯したんじゃないか…。キャンパスを歩く学生の笑顔が自分をあざ笑っているかのように見える。

「さくらさん！」
「ああ、どうだった？」
「伊田って、教授の名前らしいですよ」
「伊田教授がいるってことか？」
「そうなんですよ。同じ建物内に部屋があるそうです。今から行きますか？」
「あそこは勘弁して欲しいな」
「逃げるんですか？」
春日が上から目線でニヤニヤしている。
「ああ。君子危うきに近寄らずだ。神経が図太くないと、つぶされちまう。徳さんにお願いしよう。お前、どうする？徳さんと行ってみるか？」
「はい、喜んで」
さくらは苦笑しながら、
「分かった。徳さんに電話するから、お前は正門で待ってろ」
「さくらさんはどうされるんですか？」
「校内をぶらぶらしてるよ」
「じゃ、行ってきます」
「あ、それから、絶対徳さんって呼ぶなよ。徳川さんって呼ぶんだぞ」
「？」
春日は待てをしている犬のようにじっとさくらの顔を見ている。
「ま、好きにしろ。ほら、行け」
「はい！行ってきます！」
さくらはため息をつきながら携帯を取り出し、
「もしもし、徳さん」
「おう、さくら。どうだ、そっちは暑いか？おいちゃん、暑さでくたばってないか？」
「聖都大に来てもらえませんか」
「そうか、満男ももう大学生か」
「新人の春日を正門で待たせてますから。二人で調べてくれませんか。詳しいことは春日に聞いてください」
「分かった。何にも心配しなくていいぞ。アンちゃんに全部任せろ」
「じゃ、よろしくお願いします」